赤いピリオド

プロローグ「17年前の追憶」

人間・獣人・魔族・生物あらゆる生命が共存する星・アーシア。

その星の中で最も大きな大陸・ガルディアの西部に迷いの森と呼ばれる絶滅寸前の動物達の楽園が有る。
森は10年前までは見世物目当ての心無い人間達の手によって荒らされていたがある獣人の男が住みつき秩序が守られていった。
現在は若い夫婦と幼い子供たちの手によって森は守られている。

森の奥にある小さな家。

辺りは夜になっている。
家の内部は至ってシンプルで夫婦の寝室と子供の寝室そして食事や憩いを楽しむ部屋など生活に最低限必要なものしかここにはない。
元々この家は獣人の男一人で暮らしていたもので一人で暮らすにはかなり広すぎた。
家族4人が暮らして丁度いいくらいの広さだが所々にリフォームした後が見られる。
少なく見積もってもこの5年から6年の比較的新しい年月で。

子供部屋らしき部屋にかすかな明かりが灯されている。
灯りの先に外見上は20代半ばといってもいいオレンジに近い金色の髪と瞳の男が優しい眼差しで布団をかけている。
男が布団をかけているのは目の前で眠っているオレンジに近い金色の髪の男の子と漆黒の髪をした女の子・・・
男の隣にはどう見ても10代の少女にしか見えない漆黒の髪と茶色い瞳をした若い女性が幼い男の子と女の子に子守り歌を歌ってあげている。
どうやらこの森に住む若い人間の夫婦と幼い子供たちと言った所だろう。

−キースとカリン、二人が安心しきった寝顔を見る度にオレはほっとする。
殺し屋としての仕事を、マリーチを手にかけなくてよかった事を・・・−
キースとカリンは若い夫婦の目の前で眠っている子供達の名前、マリーチは男の隣にいる若い女性の名前のようだ。

「・・・た、ううん、リィンさん。」
男が思い出に浸っていた所をマリーチと呼ぶ女性の優しい声に反応し我に帰った。

「マリーチ・・・思い出していた、17年前の出来事を。」
リィンと呼ばれる男がマリーチの前で子供たちの寝顔を見ながら17年前の事を思い出していたと告白した。
それを聞いたマリーチは、かすかに笑いながら子供たちの寝顔を見てこう呟いた。
「私が貴方・・・リィンさんと初めて会ったのは5歳の時、今のあの子達と同じぐらいでしたね。」
それを聞いたリィンはマリーチの手の上に自分の手を添えて子供部屋の片隅に特別な硝子と鎖で封印した剣を一瞬だけ見ながら
「17年前にマリーチを殺していたらオレは殺し屋のまま温かい家庭を知らなかっただろう。」

リィンの脳裏に再び17年前の出来事がよぎった。


第1話「リィンとマリーチ」

−17年前−

ネモフィラの花が咲く4の月、ガルディアの小さな町・シーナ
帝都エリアスから遠く離れた小さな町に孤児院が有る。
その孤児院の名前はロザリア孤児院

12歳前後の茶色の髪にそばかすのある男の子の指示で複数の男の子達が女の子を苛めにかかっている。
肉体の暴力も有るが殆どが言葉の暴力。
苛められている女の子はツインテールの5歳になるかならない位の幼い子供。
まだ幼いせいか男の子達の言う言葉は理解しきれていないが悪い事を言われている事は多少理解している。
他の女の子達は茶髪・そばかす少年の報復を恐れてかツインテールの女の子を助けようとはしない。
ついに女の子は耐え切れなくなってしまい泣きながら孤児院の外へと飛び出していってしまった。

女の子が泣きながら孤児院を飛び出した所を買い物帰りと思われる15歳前後の少女が目撃し、声をかけようとした。
「あれ・・・マリーチ、どうかしたの?マリ・・・またジーク達ね、マリーチを苛めたの!!」
少女が言うマリーチとは、先程泣きながら施設を出ていったツインテールの女の子。
そしてジークは茶色の髪にそばかすの少年の事。
少女はこの施設の職員らしくジークという少年がマリーチという女の子を苛めている事に頭を悩ませている。
「げげっ!ミラが帰って来やがった。逃げ・・・うわぁぁぁぁっ!!!」
ジークにミラと呼び捨てで呼ばれた少女はジークに向かってかかと落としを食らわした。
「ジーク・・・あんたまた、マリーチを苛めたでしょ!急いで連れ戻して謝って来なさい!!」
ミラはジークに突っかかりマリーチを探して連れ戻し謝りに行くように言い渡した。
ジークの子分達や傍観している他の施設の子供たちも同罪とみなして。
だが、ジークはミラの指示に対して大人しく言う事を聞くような子供ではない。
「誰が、ミラの言う事なんかきくかよ!」
ジークはミラの前でアッカンベーをする、ジークの子分達も続けてミラに対して同じ事をする。
「誰が謝るかっつーの、おれは悪くないからな。悪いのは金持ちの家の孫娘の分際でこの施設にいるマリーチだろうが!!」
ジークの暴言を聞いたミラは腹を立てジークに対して鉄拳制裁をした。
「ジーク・・・いい加減にしなさい!証拠どこにある!?無いのに決め付けるんじゃないわよ!!!」
更にミラはジークに手を上げようとすると・・・

「辞めておきなさい、ミラ。」

と、いう年配の男性の声が聞こえる。
声の先はミラの背後から。
年の頃は70代後半、容姿は白髪・大柄で人当たりのいいお爺さんといった感じだ。
「キース・・・お爺ちゃん。」
「げげっ!院長先生!!」
ミラは老人をキースお爺ちゃんと呼びジーク達は院長先生と呼んでいる。
この老人こそ、ロザリア孤児院の院長・キースでミラの実の祖父にあたる。
どうやらキース院長は事のいきさつを影で傍観していたらしくミラが今にも一犯罪を起こしそうな状況だった。
それを見かねて出て来たといった所だろう。
「ミラの言うとおり、マリーチの名字がセレスって言うだけで決め付けるのは良くないぞ」
キース院長がジークに優しく問いただすと渋々だがジーク達は大人しくなった。
「お爺ちゃん、それどころじゃないわ。マリーチが・・・マリーチがいなくなったの!!」
ミラはキース院長にマリーチがいなくなった事を伝えた。ジーク達の所為で飛び出した事を。
それを聞いたキース院長は大慌てで孤児院を飛び出しマリーチを探しはじめた。
「あんた達も手伝うのよ!あんた達の所為だからね、マリーチがいなくなったのは。責任とりなさい!!」
ミラもマリーチを探す為にロザリア孤児院を後にしようとしていた。
ジーク達も手伝え、と釘をさして。

夜が完全に更けるまでロザリア孤児院の人間達はマリーチを探してシーナの町と近隣の町・村を探し回った
だが、シーナの町にも近隣の町や村を探してもマリーチは一向に見つからなかった。
ミラがもう少し奥まで探そうと走ろうとした途端・・・
ミラはキース院長に手をつかまれてしまった。
キース院長の話によるとミラが向かおうとした場所はガルディアにいくつか点在する獣人の里へ向かう道。
もう少し奥まで行けば人間は獣人達に捕らえられて殺されても文句が言えない所に差し掛かってしまう。
キース院長と孫娘のミラは獣人の里に迷い込んでしまったマリーチの無事を神に祈るしか無かった。

マリーチが獣人の里に迷い込んでから3日後、別の場所では・・・

盗賊団のアジトと思われる場所が映し出されている。
盗賊団のアジトだけあって強奪した金品が沢山積まれている。
だが壁はあちこちに血しぶきが飛び散り、辺りには首や額・胸などを斬られた死体が十数体もあった。
十数体もの死体を作ったのは黒と藍色の装束を身に纏った剣士と思われし男。
髪と瞳はオレンジに限りなく近い金色で髪の長さは肩まで有る、返り血を浴びたものの幼さが顔に残っていた。
良く見てみれば男というより少年と呼んだ方が相応しい。
「な・・・なんでこんなガキに部下達がやられるんだ・・・。」
一人だけ生き残ったボスらしき男が恐怖におののいていた。まさか犯人は少年とは思わなかったのだろう。
「オレ自身あんたに恨みはないがこれも仕事だからな。ヘルブリードの露となるがいい・・・。」
ヘルブリードは少年が持っている中型の剣の事。黒い柄と刃を持つ見た目からして恐怖を抱く代物。
少年は強盗団の頭の攻撃を涼しい顔でかわし何か耳元で囁くとヘルブリードを盗賊団の頭の首を斬りつけた。

その瞬間・・・

ヘルブリードによって斬られてしまった頭の首から勢いよく赤い血が吹き出し頭は息絶えて倒れていった。
少年は十数人分の返り血をかなり浴びていた。
「悪党だろうが善人だろうが・・・関係ない。オレの仕事はあらゆる者を容赦無く斬り殺す。ただそれだけだ。」
少年は小さく呟くとヘルブリードを一回振りし鞘に戻し立ち去っていった。自身の住んでいる場所へと。

少年が殺しの仕事を終えた丁度その頃、獣人の里・ブエイルでは・・・

里の入り口で女の子が泣き疲れ寝息を立てて眠っていた。
年の頃は5歳くらい、髪はカラスの濡れ羽のように黒くツインテール。
良く見てみればロザリア孤児院から逃げて来た女の子、マリーチではないか。
道無き山道を歩き時折転んだらしく体のあちこちに擦り傷・切り傷があり髪はくしゃくしゃ、服はボロボロ。
そんなマリーチの周りにブエイルの住人達は次々と里の入り口に集まって来た。
「この子・・・どこの子かしら。」
「この里の子供じゃないようだが。」
「人間が迷い込んだのじゃないの?」
「もし、この子が人間ならば口封じをしなくてはならないな。」
ブエイルの住人達は口々に里の入り口で眠っているマリーチの事を話していた。

「てめえら・・・そこで何をしている。」

高くもなく低くもない感情の無い威圧的な声が里の入り口より少し離れた所で聞こえる。
声の主はオレンジに限りなく近い金色の髪と瞳を持った幼さの残る黒衣の少年。
少年も外見は人間と変わらぬがどうやら獣人らしい。
少年は先程の殺しで返り血を浴び右手には数多の者を斬り殺し大量の血を吸い込んだ剣・ヘルブリードを持っていた。
獣人達は返り血を浴び剣を持った少年の姿を見た瞬間、恐怖におののき小声で喋りながら住居へと帰っていく。
少年に聞こえるか聞こえないかわからない声で悪口を言いながら。
「金色の髪と瞳は忌み嫌われた色、というが悪魔の申し子だよ、リィンの奴。」
「ほんと、あんな子を持って自害したレィティア夫妻が不憫だわ。」
「人間達はあのガキの事をブラッディ・リィンと呼ぶじゃないか。まさにその通りだな。」
−聞こえてるよ、てめえらの話。影で言いやがって直接言えないのか!!好きでこんな髪と瞳を持った訳じゃない!!!−
住人達にリィンと言われた少年は聴覚がかなりいいらしく全て聞こえており逃げていく住人を睨み付けていた。

騒ぎでマリーチは目を覚まし起きると辺りをキョロキョロと見回しリィンに場所を聞こうとしていた。
「ここはどこ・・・お姉ちゃんは誰?」
但し、マリーチはリィンの事をお姉ちゃんと思いリィンが男だと気がついてはいない。
先程の仕事で浴びた返り血と冷酷非情なリィンの表情を見たマリーチは恐怖で泣き出してしまった。

その瞬間・・・

リィンはマリーチの泣き声を聞いた途端、苦しみ悶絶し手にしていたヘルブリードも地面に落ちた。
マリーチが泣く度にかなり苦しみリィンの殺意は失われていく。

『こ・・・このガキ、噂のカタルシス・チャイルドじゃ・・・!!』

リィンは人間の中に邪悪な意志をかき消す能力者カタルシス・チャイルドの噂を思い出した。
カタルシス・チャイルドとして生まれる人間は極めて稀なケースで数億人に一人。
それも本人には一切自覚が無い上に判別方法が無いのでガセとも噂されている。
『このガキが本当に噂のガキならばオレの仕事は遂行できん!』
これでは仕事ができないと思ったのかリィンはマリーチをなだめようとする。
「お前・・・どこから来た。迷子か?」
マリーチはリィンの声を聞いた瞬間、泣きやんでダークブラウンの大きな目をキョトンとした。
「声・・・お姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんだったの!?」
マリーチはリィンの声を聞いてリィンが男だという事に気がつき怯えはじめた。
確かにリィンの容姿はお世辞にも男らしいとは言い難い。
身長は170cm超えているもののオレンジに近い金色の髪は肩の辺りまであり顔立ちも中性的な感じ。
声を聞かなければマリーチでなくても女性と一瞬見間違われてしまう。
「ああ、そうだオレはれっきとした男だ。女でなくて悪かったな。」
と、リィンは不機嫌そうな口調でマリーチに自分が男だといった。
どうやら女と間違えられてふて腐れていたようだ。
リィンの態度を見たマリーチは再び涙目になり表情を見たリィンは顔を青ざめ引きつっていた。
先程かなり痛い目に遭ったのかいつ泣かれるかわからない恐怖に怯えている。
−しばらく大人しくした方が身の為だ、いつまたガキに泣かれるかわからぬ−

「お前、名前は?どこから来た。」
リィンはマリーチの目線まで背をかがみ、慣れない優しい口調でマリーチの名前を聞こうとしていた。
「マリーチ・・・マリーチ=セレス。お兄ちゃんは?」
マリーチは涙声で自分のフルネームをリィンの前で名乗った。
「オレの名前はリィン、かなり擦り傷と切り傷があるな。傷の手当てをするからオレの所に行こう。」
リィンはマリーチの手を繋ぎ自分の住居へと向かった。

リィンの住居は獣人の里・プエイルに有りながら隔離されている。
それはブエイルの住人達はリィンの存在を疎んでおり関わりあいたくない事を意味している。
リィンは自分の住居に戻るとすぐに返り血を浴びた体を洗い流し仕事着からミントグリーンの普段着に着替えた。
普段着に着替え終わると傷薬とリィンが幼少の時に身につけていた服を取り出した。
リィンはマリーチの擦り傷と切り傷のある部分に傷薬を塗り付けてボロボロになってしまった服を着替えさせた。
それからツインテールの髪もかなり目茶苦茶になっており髪を下ろしてボロボロになった部分をリィンは切った。
するとマリーチの髪はツインテールではなくショートボブになってしまった。

「お兄ちゃん・・・一つきいていい。お兄ちゃんのパパとママはどこに居るの?」
マリーチはリィンの両親の事を聞いて来た。
この広い家に一人しかいないのはおかしいと思ったのだろう。
リィンはマリーチの問いにすぐ答えた。感情の無い口調で。
「オレには親はいない、生まれてすぐに自殺した。」
オレンジに限りなく近い黄金色の髪と瞳は獣人にとっては最も忌み嫌われた色。
リィンは生まれつきオレンジに限りなく近い金色の髪と瞳を持つ忌み子。
その所為で両親は生後間も無いリィンを残し自害した。
リィンは親が自害した事を話すと間を少し置いて外見の問題の所為だと話した。
「この地方では金色は忌み嫌われた色だ、オレは髪と瞳が金色・・・連中達はオレを忌み嫌ってるよ。」
マリーチからは種族の事は聞かれていないので自分が獣人だとは一切話していない。
「どうして?お兄ちゃんの髪と目すごくきれい。お兄ちゃんも私とおんなじだね。パパもママもいないの。」
と、マリーチはさっきまで泣いていたのに笑顔を見せて無邪気に話し出した。
「えっ・・・お前も親がいないのか・・・。」
里の獣人達は誰一人としてリィンに話そうとはしない、しかしマリーチはリィンの正体は知らないが無邪気に話し掛けてくる。
−なんだろう・・・この感じは。今まで経験した事のない、苦しさの中に温かさを感じる・・・−

「もう一度聞くが、マリーチお前はどこから来た?親がいないという事は孤児院だろうが。」
ようやくマリーチは落ち着きを取り戻したのかリィンの質問に応えられるようになった。
「シーナのロザリア孤児院・・・」
それを聞いたリィンは少し呆れてはいたが一刻も早く送り返した方が得策と考えた。
「シーナならば子供の足では3日はかかる所、オレの背中に乗れ。オレならシーナへの近道を知っている。」
リィンはマリーチを背中に背負い腰にヘルブリードを装備するとシーナの町に向かい近道を突き進んでいった。
リィンに背負われたマリーチは緊張から解き放たれ疲れてしまったのか眠ってしまった。
−愚かなガキだ、オレに関わった以上・・・遅かれ早かれ肉体を切り裂かれ血の海になるというのに無邪気に眠ってやがる。−

リィンはまだマリーチの殺害を諦めた訳ではなかった。


第2話「孤児院へホームステイ?」

リィンは疲れて眠っているマリーチを背中に背負い、リィン自身しか知らない近道を使ってシーナの町へ抜けた。
正規のルートを使えば子供の足では3日はかかるが近道を使った為に半日程度で住んだようだ。
「さて、と・・・ロザリア孤児院を探さねばならないが。」
もう少し時間が遅ければ町の住人にロザリア孤児院の事を聞き出せるのだが外はまだ薄暗い早朝。
仕方なくリィンは自力でロザリア孤児院の居場所探す事にした。

シーナの町はさほど大きな町ではなくリィンの脚力では数時間有れば十分に町全てを回る事が出来る。
「後はこの周辺だけか・・・」
リィンがロザリア孤児院の門に差し掛かった時に突然、女性の大声が聞こえた。

大声の主はミラ。
どうやらミラはリィンの事を誘拐犯だと思ってしまったらしい。
リィンは女性の心無い言葉に腹を立て、マリーチを背負ったまま右手でヘルブリードを引き抜こうとしている。
一触即発、リィンの表情は死神の顔になり今にも殺そうとしたその時・・・

「・・・早とちりはやめなさい、ミラ。そこの御人も剣を収めなさい。」

と、人当たりのいいお爺さんの声が聞こえる。

リィンとミラのやり取りを聞きつけたキース院長が駆け寄り二人を諌めた。

「ミラ?あんたがマリーチの言っていたミラ姉ちゃんか。それならそうと早く言え。」
実はリィン、ブエイルから出る前にマリーチから姉と慕っているミラの事は聞かされている。
キース院長がミラと呼んでいたのを聞いてリィンは鞘から抜きかけたヘルブリードを元に戻した。
「え・・・声、あんたひょっとして男だったの!?」
ミラはリィンの声を聞いた途端、マリーチと同じリアクションになっていた。
「あんたもか・・・オレの声を聞いた途端、こいつも同じリアクションをしてた。」
リィンはため息を吐きながら呆れた口調でミラを見下すかのように言った。
ミラは我に戻り、リィンに謝罪し自分達の事を話した。
「さっきはごめんね!あたしはミランダ。ミラと呼ばれてる、こっちはキースお爺ちゃん。ここの院長なの。ところであんたは?」
「これ、ミラ。言葉遣いはちゃんとしなさい、嫁入り前の・・・二十歳にもなってはしたない!」
キース院長がばらしたミラの年齢を聞きリィンは少し呆れている。
どう見てもリィンと同年代としか見えないミラが自分よりも5歳も年上とは。
「オレよりも5つも年上・・・、オレの名前はリィン、リィン・レイティア。こいつを届けにブエイルから来た。」
リィンはキース院長とミラの前で感情の無い口調でマリーチがブエイルにいた事を話した。
本当はマリーチを殺すつもりだったのだが泣かれてしまいやむを得ず保護し、送りかえしたとは口が裂けても言えない。
「獣人の里・ブエイルに・・・!それではリィン殿は人間ではなくて・・・」
キース院長の質問にリィンは首を縦に振った。
「そうだ、自らの意志で力を押さえつけているがオレは獣人。爺さんとミラの秘密にして欲しい。」
マリーチが目を覚まして本性を知られたくないのかキース院長とミラに口止めして欲しいと頼んだ。
リィンの頼みを二人は無言で承諾する。
3人のやり取りが騒がしいのか、リィンの背後で眠っていたマリーチは目を覚まし少しぼんやりとしていた。
「ん・・・いんちょうせんせいとミラお姉ちゃん?」
マリーチが目を覚ました事を知るとリィンはマリーチを降ろし頭を撫で優しい声をかけた。
「よかったな、お姉ちゃんに会えて。そしてうちに戻れて。」
リィンはロザリア孤児院でマリーチをミラに引き渡しブエイルへ帰ろうと出て行こうとした途端・・・

「や・・・お兄ちゃん、行っちゃヤダー!!」

マリーチはリィンに二度と会えない事を悟り大声で泣き出し暴れてしまった。
マリーチの泣き声と涙を聞いた途端、リィンは再び苦しみ悶絶しはじめた。
「こいつを何とかしろ!こいつに泣かれるとな・・・オレは邪悪な心を削り取られるんだよ!!」
リィンがマリーチに対して親切にしていたのはマリーチの涙と泣き声の所為。
マリーチ自身、自覚してないが特別な波長を持っておりかなり邪悪な心を持つ者の心を癒す力がある。
その力が無ければおそらくマリーチはすぐにリィンのヘルブリードの餌食になっていただろう。
「おもしろーい!マリーチの泣き声って、そんな力があったのね。このまま観察しちゃお。」
マリーチの涙と泣き声で苦しんでいるリィンをからかいながら観察しているミラをキース院長は咳払いで止めた。
「いっそのこと、リィンあんたここで暮らせばいいんじゃないの?マリーチも泣き止むし一石二鳥だから。」
ミラがとっさに思い付いた事を言うとマリーチの泣き声はピタリとやんだ。
「お兄ちゃんも・・・ここに住むの?」
マリーチを何とか泣き止ませた瞬間、リィンも苦しみから開放された。但し、まだ肩で息している状態だが
ミラのとっさの思い付き発言はリィンにとってはかなりの迷惑。
なにせブエイルでの住まいもあるし、殺し屋の仕事もある。
ここに住むという事はブエイルの住まいと仕事を手放すという事になるから。
「冗談言うな、オレの住まいはブエイルに有る、それに仕事もな。ずっと住む事は出来ん!!」
リィンの言葉を聞いたマリーチは今にも泣き出しそうな顔でリィンを見ていた。
その表情を見たリィンは顔を引き攣らせマリーチをなだめようとする。
「わかった・・・わかったから、涙目を見せるな!!その代わり一週間だけだぞ。」
リィンはマリーチにそう言うとマリーチは泣き止み、代わりに笑顔を見せた。
リィンはマリーチに泣かれる事を恐れてか渋々ロザリア孤児院に一週間だけホームステイをする事にした。

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